1ヶ月ぶりにジムに行ったら、いつもの重量が上がらなかった。 バーが重い。回数も足りない。
この1ヶ月で、筋肉が落ちてしまったのか。
結論を先に書きます。
落ちたのは筋力ではありません。鈍っているのは、下ろす力と、力の出し方です。
筋肉はそう簡単になくなりません。 私の場合、2〜3回トレーニングに行けば元に戻ります。
1. 体重が5kg増えて元気なのに、減量末期より上がらない
まず、私自身の話を書きます。
大会が終わったあと、私は1ヶ月くらい思いきりトレーニングを休みます。 その間は好きなものを食べます。体重が一気に5kgくらい戻ることもあります。

そして久しぶりにジムに行くと、まあ、上がらない。 前回の大会のあとも、復帰の1回目はベンチプレスの100kgが挙がりませんでした。
ここが不思議なところです。 体重は増えている。よく食べて、よく寝ている。元気なはずです。 それなのに、限界まで絞りきった、この状態のほうが重いものを挙げられていた。

※どちらも私です。左のほうが体重はあります。それでも、挙がっていたのは右の状態のときでした。
減量末期というのは、体重も削れて、いちばん力が出なさそうな状態です。 それより上がらない。
2. 調べてみると、研究では「落ちていない」ことになっていました
この記事を書くにあたって、文献を当たりました。
意外だったのですが、短い休みで最大筋力はほとんど落ちないというのが、研究をまとめた報告の結論です。 27の研究(のべ1,015名)をまとめた系統的レビューは、3週間の休止までは筋力の水準が保たれるとしています(McMaster et al., 2013)。 未経験の男性15名にベンチプレスをさせた研究でも、3週間の休止で筋断面積と最大挙上重量のどちらにも有意な低下はありませんでした(Ogasawara et al., 2011)。
競技者12名に14日間の完全な休止を課した介入研究では、こうなっていました。
- ベンチプレス −1.7%
- パラレルスクワット −0.9%
どちらも、統計的に意味のある差ではありませんでした(Hortobágyi et al., 1993)。
数字の上では、落ちていない。 でも、やっている本人は「上がらない」と感じる。
この食い違いが、この記事の本題です。
3. 落ちていたのは「下ろす力」と「力の出し方」でした
同じ研究の中で、とくにはっきり落ちたものがありました。
下ろす方向の力(エキセントリック)です。−12%。しかも12人全員で低下していました。 あわせて、速筋(Type II)線維の断面積が −6.4% 小さくなっていました。
もうひとつ。 男性9名に4週間休んでもらった別の研究では、こうなっていました。
- 筋肉の太さ −3%
- 筋肉への指令(筋電) −20%
- 力を出しきる度合い −5%
筋肉のサイズが落ちるより、指令の出し方が鈍るほうが先だったということです(Gondin et al., 2006)。
※この研究では最大筋力も9%落ちています。ただし参加者は9名、しかも通常の筋トレではなく電気刺激によるトレーニングのあとの休止なので、そのまま一般化はできません。
つまり休み明けに起きているのは、「筋肉が減った」ではありません。 下ろすときに支えきれない。力の入れどころが思い出せない。 これは最大重量の数字には出にくいのに、やっている本人にははっきり分かります。
そして、脂肪で増えた分は、力を出す側が増えたわけではありません。 挙上重量と強く相関するのは体重そのものではなく、除脂肪量のほうです。 エリートのパワーリフター20名を測った研究では、その相関は r = 0.86〜0.95 でした(Brechue & Abe, 2002)。 脂肪が5kg戻っても、力を出す側の組織が増えたわけではない、ということです。

4. 筋肉痛がひどくなるのも、思っていた理由とは違いました
久しぶりのトレーニングのあとは、筋肉痛もひどくなることが多いです。しかも長い。
私はずっと「久しぶりだから耐性が切れたのだろう」と思っていました。 調べたら、違いました。
一度やった運動は次から筋肉痛になりにくくなります。この効果は、1ヶ月では切れません。 4週間後でも8週間後でも、2回目の筋肉痛も筋力の落ち方も、はっきり小さくなります(Nosaka et al., 2005)。 筋肉痛についての保護は少なくとも6ヶ月続き、消えるのは9〜12ヶ月のあいだでした(Nosaka et al., 2001)。
では、なぜ久しぶりだと痛むのか。
この効果は「同じ種目・同じ可動域・同じ強度」にしか効かないからです。 久しぶりの1回目は、種目も量もテンポも、普段と少しずつ違っています。 その違う分だけ、身体にとっては「初めての刺激」なのです。
もうひとつ、見かけの問題もあります。 14日休んだだけで、安静時のクレアチンキナーゼ(筋のダメージの目印)は −82.3% まで下がっていました(Hortobágyi et al., 1993)。 底が下がっているぶん、休み明けの上がり幅は大きく見えます。
ついでに書いておくと、筋肉痛は成長のサインではありません。 10週間の筋トレを追った研究では、筋の損傷は1週目がいちばん大きく、3週目には減り、10週目にはほとんどなくなっていました。 筋線維の断面積が増えたのは、その10週目だけです。 損傷がいちばん大きかった1週目の反応は、筋肉の成長と相関していませんでした(Damas et al., 2016)。
痛いから効いている、ではありません。
5. それでも、2〜3回で戻ります
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
私の場合、だいたい2〜3回トレーニングに行くと、1ヶ月前の筋力に戻ります。
1ヶ月まるまる休んで、5kg太って、1回目はまったく上がらない。 それでも、2回目、3回目で戻る。 1回目に挙がらなかった100kgも、3回目には数回挙がって、完全に戻っていました。
会員さんも同じです。 少し空けて戻ってきた方は、2〜3回目には完全に戻っています。 そう簡単に、筋肉は落ちません。
※私のところの会員さんを見てきた経験です。個人差があります。
正直に書くと、この「2〜3回」は私と会員さんを見てきた実感です。 再開して2〜3回目の時点を測った研究は見つけられませんでした。研究が測っているのはもっと先の、5週や8週という単位です。
なぜすぐ戻る?「マッスルメモリー」と身体の仕組み
ただ、ここまでの話とつなげると、筋は通ります。 筋肉を作り直しているのではなく、出し方を思い出しているだけだからです。 落ちていたのが「下ろす力」と「指令」なら、戻すのに何ヶ月もかからない。
「マッスルメモリー」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。 これはネズミではかなり確からしく、人ではまだ決着していません。 人の研究をまとめた解析では「筋核は永続しない」と結論されていますし(Rahmati et al., 2022)、片脚だけ鍛えて反対側と比べる厳しい設計では、経験のある脚が有利にはなりませんでした。
ネットでよく見る「筋肉記憶は約10年続く」という話も、出どころを辿ると根拠が見つかりません。
だから私が言えるのは、ここまでです。
いったん落ちた分を戻すのに、何ヶ月もかかるわけではない。
高齢の男性を対象にした研究では、12週間の休みで落ちた最大重量が、8週かからずに元の水準へ戻っています(Blocquiaux et al., 2020)。 未経験の男性8名に7週トレーニング→7週完全休止→7週再開をさせた研究でも、同じ人の2回目の7週での筋量の増え方のほうが、1回目より大きくなっていました(Seaborne et al., 2018)。
※ただしこちらは対照群のない8名の試験で、筋力そのものについては、1回目の伸びに有意差が出ていません。
「経験者だから初心者より伸びる」という話ではありません。 自分が一度いた場所に戻るだけなら、時間はかからない。それだけです。


